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プレイリー・スチュアート・ウルフ
長い目で
山本隆博は、盆が積まれている前に足を組んで座る。それをひとつひとつ取り上げ、刷毛で黒い漆を塗り重ねていく。集中し、計算された動きで、表面に埃が埋め込まれたりすることのないよう気を配る。高台寺和久傳でまいにち使われるこの黒い折敷は、表面を新しく塗り直すために、ここに戻ってきたものだ。
「漆の特別な魅力のひとつは、修理ができることです」と彼は言う。それは彼がつくるものの大きな特徴であり、つくり手として大切に行っていることだと。「修理ができるものをつくることは、私の責任だと思っています。うちではいつもそうやってきました」父に師事した山本は、受け継いだ技と視点とをもって、仕事を続けている。ひとつの盆から次へと移り、それを背後にある、温度と湿度が丁寧に調整された棚に置く。ウルシノキの樹液からつくられる漆の塗りは、温かく、湿気のある場所に置かれて、滑らかで硬く、熱に強い表面に仕上がっていく。
漆の面のサテンのような艶は、ほんとうに魅惑的だ。それは光を吸収し、おだやかに照り返す。まるで内側からの蝋燭の光のような、やわらかな光を放つ。漆の器は使われることで味わいが出て、光沢が増してくる。強さをうちに秘めたこの静かな美しさは日本の美学と分かち難く、時代を超えて、美しく耐久性のある用具がつくられてきた。森林が多い日本は、建築や家具、道具や器の素材として、長きにわたって木材に頼ってきた。しかし裸のままの木材は、特に日本の暖かく湿気の多い気候では、カビや腐敗を免れない。漆のコーティングは、装飾と実用の両面の意味があり、木を守り、その美しさを高める。
仕事を終え、山本はいきいきと多弁になる。瞳を輝かせ、最近のカルチャーについて熱心に思いを語る。彼は最近の流行が目まぐるしく変わることに不安を抱いている。新しいものを崇め、それ以前のものを意図的に陳腐化するような傾向によって、私たちは無常の時代に置かれている。作家にも使い手にも長期的な視点がなく、彼の仕事の核にある耐久性や寿命について関心が薄いように感じられる。白木の器の人気が高まっているのを見て、 その素材にどれくらい回復力があるかと訝しむ。山本が引き継いだ技と考え方は、彼より以前の世代に近しい。それは人々が質の高いものを求め、それにお金をかけ、一生使っていた時代だ。しかし彼の周囲で世界は変化を遂げている。そのことは彼に、修理ができて、使い手が望むだけの期間使うことができるものをつくるのだという心情を再確認させる。継続すること、漆の特徴を表現し続けていきたいという気持ちは、そこから生まれている。彼のように、つくったものと継続して関係を持ち続ける職人は数少ない。自分がつくったものの状態を整え、まいにちの暮らしの中の美しい道具としての寿命を、確かなものにしている。