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プレイリー・スチュアート・ウルフ

土から起こす 土から起こす

土から起こす

国東半島は、九州の北東の角にあって、瀬戸内海に突き出している。中央の両子山から尾根や谷が触手のように放射状に広がっている。航空写真を見るとインクの染みのようで、川の流れが厚い紙の隙間に入り込んでいるようにも見える。土地には豊かな精神文化の歴史があり、岩壁に彫られた雄大なものから、山深い斜面に集まる小さなものまで、多くの石仏が残っている。人口の少ない地元の村に暮らす人たちが、数多くの史跡を大切に手入れしている。

家族のつながりや祖先の来歴が大きな力を持つ国にあって、菊池克はそのどちらもない土地に居を構えた。妻と幼い二人の子供と暮らす古い農家の建屋に住むことを決めたのは何故なのかと尋ねると、ほんとうに偶然だったと言う。半島を見て回る旅の途中で役場に立ち寄り、空いている土地がないか尋ねた。その家にはいくつかの離れがあり、都合がいいように感じた。予算に収まり、薪窯の煙が隣人の迷惑にならないという条件も満たしていた。ある程度の孤立が必要であること、都市の雑念や、陶芸で知られる町、その歴史が持つ影響力から離れるということにも合っていた。自らの体験を代謝させ、自分なりのやり方を見つけられる場所だ。

克さんが陶芸を職業にしたことは、国東に来たことと同じくらい偶然の産物だ。スペインで生活していたときに、スペイン人の教師から日本の陶芸を学んだ。遠く離れたところから、日本の陶芸の伝統が持つ美しさがはっきりと見え、彼はそれに惹きつけられた。とりわけ唐津焼の繊細な美しさに惹かれた。日本に戻り、唐津で修行をした。しかし独立する段になって、自分を惹き寄せた伝統の強い潮流からは離れなければならないことがはっきりとわかった。内にいながら、独自のものを目指すことは困難だと感じた。
 
いま、国東にしっかりと根を下ろし、克さんの独自の実践は、肉体と概念との両方に同じ比重で熱中することを伴う。インスピレーションは音楽の旋律や、一行の文章から訪れることもある。 そして毎日、それを受け止められるよう訓練をしているのだ、と彼は言う。学者のような物腰で、常に質問を投げかけ、新しいことを考え続けているようだ。展覧会は、一回ごとに初めてのテーマを考え抜き、研ぎ澄まし、その可能性を追求し、新しい作品を作る機会だ。アイディアを胸に、彼は土を掘り、器をひき、釉薬をつくり、薪窯に薪をくべる。そのすべての過程に自分の手で関わり、つくるという行為を通して素材のことを学び、自分のこと、自分を取り巻く世界のことを学んでいる。

筆者紹介

プレイリー・スチュアート・ウルフ

料理が大好きな、文筆家、写真家。2007年に来日し、すぐに日本の食文化の深さと美しさに気づく。日本の食の素材、考え方、そして実践を生活の中で見つめるブログ「Cultivated Days(日々を耕す)」を記し続けている。

https://cultivateddays.co