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プレイリー・スチュアート・ウルフ
新しい年を迎える
年末の、いつにも増して丁寧な掃除のために、窓や扉が開けられている。廊下や部屋の中は、12月の午後の気温と同じ寒さだ。囲炉裏の部屋は、新しい畳の匂いが清々しい。真新しい年を迎える、青々とした草の匂い。庭には琥珀色の松葉が敷き詰められている。椿が、蕾を乗せた枝を窓の方に伸ばしている。いくつか開きかけた花弁は、冬の上気した頬のように赤く染まっている。
どの部屋にも活気がある。誰もが寒さに追いつかれまいとするかのように、足早に動いている。一年の終わりの、この数日間は、家を蘇らせ、新しい活力を吹き込むときだ。修繕が行われる。熟練の左官屋が、梯子に乗って玄関の上のひびを直している。小さな刷毛で濡れた土を塗り込み、ぴったりと色を合わせる。割れ目ができるのは、現代に生きる私たちが快適を求めている限り、避けられないこと。家の内と外との温度差に対応できず、壁の膨張と収縮がつりあわなくなるのだ。
二階では三人の職人が和紙を張り替えている。ひとりは障子の破れ目を点検し、新しい紙を測って切り、木枠に糊をつけて貼り付ける。あとのふたりは、壁の腰張りを貼り直している。「きれいな着物がざらざらした壁に擦れるとあかんからな」と、ひとりが小麦粉を溶いた糊を和紙に塗りながら言う。もうひとりがそれを壁にあてがう。刷毛を横に動かして貼り付けたあと、毛先で軽くたたいて紙を押し込み、壁の風合いを引き出していく。
調理場も冬の外気と同じ寒さだ。さまざまな素材の状態を保つために暖房は使われていない。料理長が、フリースやダウンを着込んだ料理人たちを率いて、御節を準備している。 彼にとって、新しい御節を考えることが、料理長になって最初のチャレンジだった。そして以来毎年、50種類以上の、それぞれに異なる味付けの品を工夫している。御節は次々と無垢の檜箱三段に詰められていく。事前に調理するので、料亭で行う普段の調理とは違ったアプローチが必要なのだと、彼は言う。味付けは時間とともにまろやかになる。元旦に、目指している味になるように、計算する必要がある。
料理人たちは夜を徹して働いている。朝が夜になり、またすぐ朝になる。
晦日の午前四時、広間の漆塗りの卓に、完成した御節が並んだ。野や山や海から集められた味が散りばめられている。それぞれの品は一年を通してのさまざまな時節を表現し、過ぎた季節を思い、その再来を待つ気持ちを誘う。真ん中の段には間人蟹。鮮やかな赤い殻に、雪のように白い身片が収められて、晴れやかだ。
新年を尊ぶ料理が、丁寧にくるまれている。輪にした二本の柳にはいくつもの芽が吹き、たくさんの幸運を呼んでいる。吉兆の漢字を重ねた名は、幾久しく続く幸福を願う。両端が削られた瑞々しい青竹の箸は、手にとれば、ひんやりとするだろう。
日が昇り、調理場は元の状態に整えられて、今年最後の夕食の客人に備える。料理人は短い休息を取り、掃除が続けられる。冬の陽は短く、夕暮れが近づいて、若いスタッフが玄 関脇の灯りを灯す。彼女が中に戻ろうとすると、着物の袖で起きた風で、白と桃色の餅花 がつけられた枝垂れ柳の枝が揺れる。餅花は、農家の、天候と豊作への祈りが起源だという。厳しい冬の最中、田んぼは静かに休んでいる。その先にかすかに感じる春に想いを馳せ、枝に餅をつけていったのだ。この玄関にも、祈りの枝が飾られている。