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プレイリー・スチュアート・ウルフ

いくらかの安らぎ いくらかの安らぎ

いくらかの安らぎ

容赦のない夏が戻ってきた。訪れるものを十分にわかって予期していても、毎年、新しい厳しさを経験する。外に出ればうだるような暑さと過酷な湿度に迎えられ、粘度のある空気の中、絶え間ない蝉の声が降り注ぐ。エネルギーが衰えて、気が萎える。
 
家の壁は、外のものから内を守り、部屋の内部は、いくらかの救いを差し出すようにしつらえられる。冬に暖をつくりだすのと同じように、夏には涼を育む。もしも涼しさ自体を差し出せないときには、その印象をつくり、ひとときほっとする安らぎを届けることができるかもしれない。
 
部屋は静かで、装飾は考えぬかれていながら、あくまで控えめだ。どう見えるか、よりも、どう感じられるかを考えている。気を鎮め、知性は脇に置いて、五感で経験してみる。するとその空間は、母国語ではなく普遍的な詩情で、温度や光、音や匂いが持たらす感覚で、語りかけてくる。

あなたの訪問を、楽しみに待っていました。私たちは以前に会っているかもしれないし、会っていないかもしれない。でも、それは些細なこと。いま、この季節を鑑みて、大切な客人のために掛け軸、置物、花が選ばれている。上からの照明は消されている。電球の熱が、暑さに追い討ちをかけないように。部屋は薄暗い。紗のかかった窓からの光と、行灯がひとつ、暗い隅に押しやられてあるだけだ。薄闇が、夏の濃い緑が映り込む影を、艶のある漆の食卓に浮かびあがらせている。
 
外では太陽が明るく燃える。斑らな光が、庭の苔やシダ、ツワブキや石の上で踊っている。軒から下がる葦簀を、生暖かい風がなぶっていく。眩しい光を抑え、空気と光だけを通している。光が、畳の上に敷かれた葦の敷物の上に溢れる。敷物には、いくつもの夏に様々な足跡を受け止めた、静かな光沢がある。
 
ひととき、休んでほしい。立ち止まって、部屋をとりこんでほしい。感覚が言葉にならずに漂うのに任せて。ここで慰めを見つけ、太陽にいちばん近い季節の厳しさからひととき息をつき、健やかに、進んでいってほしい。

筆者紹介

プレイリー・スチュアート・ウルフ

料理が大好きな、文筆家、写真家。2007年に来日し、すぐに日本の食文化の深さと美しさに気づく。日本の食の素材、考え方、そして実践を生活の中で見つめるブログ「Cultivated Days(日々を耕す)」を記し続けている。

https://cultivateddays.co