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プレイリー・スチュアート・ウルフ

染屋の仕事 染屋の仕事

染屋の仕事

京都の染司よしおかの6代目、吉岡更紗は、静かな情熱と粘り強さで仕事に向き合う。休みの日でも彼女の手は落ち着かず、頭は仕事のことへと戻っていく。それは古代へと深く分け入っていくような仕事であり、未来を見つめる仕事でもある。

染屋の仕事は、色への路だ。植物の繊維から、紙や糸や布の繊維へと、色を、辛抱強くなだめながら導いていく。天然の原料から引き出された色は、鮮やかで、すべての人が美しいと思えるような普遍的な美を持っている。淡い色も深い色も、自然から導かれた色は透明感のある正直な色であり、柔らかく暖かくていながら、鋭く、エネルギーが脈打っている。
 
染屋の仕事は、地表の上と下、その両方にある自然の世界とつながる路だ。複雑な工程と、直感や経験とが合わさり、木の皮や茎、果実や葉、花、根、木の実などに潜む鮮やか な虹色が、水を通して放たれる。工房の水は、地下100メートルから汲まれている。その水の温度が変わることはなく、冬にはぬるく、夏にはひんやりと気持ちよく感じられる。 麻や絹の糸や布は、染料に繰り返し浸され、ぴったり思い通りの色合いになるまで何度も色を重ねられる。

染屋の仕事は、過去への路でもある。ヨーロッパから化学染料がもたらされたとき、それは素晴らしい近代的な進歩だと賞賛され、あっというまに植物染料を凌駕して全国に広がった。何世紀にもわたって磨きあげられてきた天然の染料を使った染色の知識や技術は失われてしまった。工房を、その失われた手法に完全に戻そうと、吉岡の父と祖父は日本文化の黄金期である平安時代の書籍を読み解き、自らの祖先たちが実践していたやり方を学んだ。工房は今日も、歴史的な修復や複製を手がけ続け、かつて日本が持っていた素晴らしい天然素材の染めの技法を継承し、さらに進化させようとしている。吉岡も、奈良の東大寺正倉院に保存された歴史的な資料から頻繁に学んでいる。
 
染屋の仕事は、今につながる歴史の路だ。毎年彼女は、責任の重みを感じながら、乾燥させた紅花の花びらから抽出した紅と、クチナシの実からとった黄で、和紙を染める。染められた和紙は東大寺に届けられ、僧侶の手によって椿の花に仕立てられる。紙の椿は、3月には、千年をはるかに超えて毎年行われている修二会に供えられる。

色は、その存在によっても、その不在によっても、強い印象を与える。今日、天然の染料による染物の最盛期は遠く過ぎ去り、土壌は消耗してしまっている。植物の力も弱まっている。同じ濃さの染料を得るために、より多くの生の原料が必要になっている。以前はあり余るほどあった植物も稀少になり、絶滅が危惧されるものさえある。たとえばその根を使って高貴な紫を染める、紫草。工房は今や、仕事をするための原料を保護する役割も担っている。吉岡は染料が宿る植物の生態を学び、農家とともに、様々な環境条件に打ち勝ってその力が保たれるようにつとめている。土地を管理するというこの役割において、染屋の仕事は、未来への路でもある。

筆者紹介

プレイリー・スチュアート・ウルフ

料理が大好きな、文筆家、写真家。2007年に来日し、すぐに日本の食文化の深さと美しさに気づく。日本の食の素材、考え方、そして実践を生活の中で見つめるブログ「Cultivated Days(日々を耕す)」を記し続けている。

https://cultivateddays.co