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プレイリー・スチュアート・ウルフ

一瞬を手にする 一瞬を手にする

一瞬を手にする

橋田実佐子は日陰でスツールに座り、膝に置いた新しい竹の徳利を磨いている。そして腕を伸ばし、きれいにゆすがれた筒を持ち上げる。竹の円周を辿るなめらかな縁は、わずかに傾斜している。筒がエメラルドグリーンに輝く。青竹には水をたたえた重みがある。水が染み込んだ竹は、佇まいがすきっとしている。そこには、夏の日に一口の冷たい水を飲んだ時のような、心を落ち着かせる力がある。

それから猪口を手にとり、その小さな杯の口から縦に走る凹みを指でなぞる。この仕事を始めて、5年。独学で学び、自分が求める完成度の基準をしっかりと持っている。鮮やかに無駄なく、彼女は竹の生命力と形を生かした器をつくる。そしてこの、枝が押し付けられてできた凹みのような、完全でない形を愛している。それを見る彼女の瞳は無邪気な驚きに輝き、自分の手が作り上げるものに魅了されている。

青竹の、青を感じさせる深い緑は、神秘的だ。それはすべての刹那的なもの、春、若さ、 生命力、今という瞬間を象徴している。実佐子の夫は竹林を長い時間歩き、適した竹を探す。徳利の長さに合う節を持った孟宗竹。猪口の色と大きさにあった真竹。夫が収穫を持って戻ったら、彼女は素早く仕事をしなければならない。生の竹は枯れやすく、色は儚い。
 
青竹の器は、食事の味わいを深める大切なものだ。徳利から酒の透明な細い筋が勢いのある清流のように流れ出て、淡い色の竹の肉を通って、注がれる。猪口の底は指に涼やかだ。酒が浸った猪口の縁が、唇に触れる。酒はまろやかで舌に優しく、竹のほのかな香りを運んでくる。その瞬間は、鮮やかに生きている。さあ、飲み干そう、消えてしまう前に。

筆者紹介

プレイリー・スチュアート・ウルフ

料理が大好きな、文筆家、写真家。2007年に来日し、すぐに日本の食文化の深さと美しさに気づく。日本の食の素材、考え方、そして実践を生活の中で見つめるブログ「Cultivated Days(日々を耕す)」を記し続けている。

https://cultivateddays.co